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虚空蔵 8人展

8月14日(月)まで、日本橋三越本館アートギャラリーで表記8人展が開催されている。
出展者の一人が我らがエンフィールド乗りの丸山達也さん。B増井さんの「R/E友の会」でのインタビューでも紹介されているが、丸山さんは新進気鋭の木彫作家。実は彼がどんな作品を創り出すのか、かなり興味を持って出かけたのだった。

中央エレベータを降りたまさにその正面が虚空蔵展の会場だった。そして、そのど真ん中に展示されていたのが、丸山さんの「みどりのロケット」という作品だった。以下、美術に詳しいわけでもなんでもない私が、ただ感じたままの感想を書くことをお許しいただきたい。(掲載写真は特別に許可を得て撮影しています。)

『みどりのロケット』
そう、バッタ。バッタの飛躍である。まず目を奪われるのは、やはりそのディテイル。生物学のアトラスのように正確なディテイル。「正確な」というと、一番本物に忠実に正確なのは写真とか模型ではないか、そして、写真や模型では絵画や彫刻ではないのではないか、と思われがちかもしれない。以前、アメリカの作家だったと思うが、実際の人間から型を取って体を作り、それに毛髪をつけ衣服を着せ、アゴから汗の雫をしたたらせてベンチに佇むアメリカン・フットボーラーの像を見たことがある。本当に息をしているかのように本物ソックリ!だったが、やはりそれはちょっと芸術性に於いては疑問を感じる手法だった。解剖学の本の図は、それこそ正確性が重視されるが、往々にして写真より名人による手書きの図が重用される。丸山さんのバッタは、その解剖学の本の図を思わせるような「正確さ」なのである。決して模型や写真のようではない。

最初はそのディテイルの「正確さ」に目を奪われるのだが、見ているうちに段々全体のフォルムが見えてくる。跳躍の動きのなかの一瞬を高速度撮影で止めたような構図。後足の筋肉(?)の躍動、ぶぶぶぶぶ・・・と震えるように空を打つ羽(この羽のつくりが、昆虫標本のようには作られてはおらず、実際の動きを切り取ったような造形になっているのだ)、ぴんと張った胸、そして何処を見つめるでもなく跳躍の到達点を見据えるような、眼・・・

あちらから、こちらから眺める。いくら見ていても飽きない。そうしているうちに、カタチから見る眼が解き放たれてくるように感じてくる。このカタチの先にあるものってなんだろう。みどり色の草原のロケットの、その眼の見つめる空間の先、跳躍の到達点は何なのだろう。

『Boy replay』

不思議な不思議な作品である。じっと背を丸め、耳を傾ける。聞き取ろうとする音は何処から聞こえてくる音なのだろうか(僕にはこの作品は、音を発するほうではなく聞き取るほうに感じられた)。かすかに空気を震わせて伝わってくるその音を、もらさず感じ取れるようにと心を静かにする。眼は、ひらいていてもきっと何も見てはいない。いや、見据えているのは、音の発する虚空の彼方か。おお、段々虚空蔵というキーワードが重なってきた。(虚空蔵とは、日本を代表する仏像の一つだそうである。知ろうとする菩薩。)

『・・・・・・』


大変申し訳ありません。作品名を失念いたしました。
この作品からも膨大な時の流れの静止、虚空という感じを受ける。やはり物音一つしない夜の森の闇の奥から、見ていて見ていないその眼は、何処を何を見つめるのか。そして、ふわっと枝から飛び立つのは、何を見、何を感じた時なのだろうか。

『丸山氏との談話』
motchie:「みどりのロケット」を見ていて、最初はディテイルに眼が行きました。こういう精密な形を見ると、そのカタチを木でつくるというその技術に眼がいき勝ちだけれども、この作品からは技術の披露にとどまらないものを感じました。丸山さんはこの世界に入って約10年になるんでしたよね?プロの世界に入っての最初の4〜5年くらいは、まずその世界で続くかどうかの分かれ道、次の10年目くらいまでは、技術・技法・知識を固める時期、そしてそれからが、身についた安定した技術で「何をするか」という時期なんじゃないかと個人的には感じています。丸山さんは年齢からは、その第2期にいるのかな、と思っていたのですが、今回作品を拝見して、まだお若いのにもう既に第3期に入っていらっしゃることを強く感じました。さて、今回はグループ展でしたが、作品をそろえるのは大変じゃないですか?
丸山:たしかに大変ではあるのですけれど、勿論楽しいことでもあります。
motchie:モチーフに昆虫?が多いのですが。
丸山:ちいさい時から虫が好きなんです(笑)。もう、昆虫はいくら見ていても飽きないですね。
motchie:人間はモチーフにしないのですか?
丸山:しないと思います。少なくとも今は人をやることはしません。ヨロイ・カブトは好きなのでやるかもしれませんが。
motchie;なるほど。ある意味、昆虫も甲冑をまとっていると言えなくもないですよね。
丸山:ああ、そうですね!
motchie:ところで、作風を見ているうちに、漆をやったらどうかな、と思ったのですが。
丸山:これ、全部、漆で塗ってあるんですよ(笑)。
motchie;ああ!それは失礼しました! でも、なんでそう感じたんでしょうね。 今回出展されているほかの作家の方の作品を見ていても、なんとなく仏像彫刻との類似を感じるのですけれど。
丸山:我々の師が、仏像を作る技法を用いるので。
motchie:成る程。。。そういう眼で見れば、「みどりのロケット」なども、古いお寺の本堂においてあっても、しっくり来るように思います。。。。


しばらく人はやらない、といっていた丸山さんではあるが、たとえ虫のカタチを通してではあっても、やはりそこに表現するのは人間の何か、なのだろうと思う。今回丸山氏の作品を見てきて印象に深く残るのは、その作品のまなざし。バッタの、カブトムシの、フクロウの、見つめていないようで見据える虚空の彼方には、なにがあるのだろう?そして、彼・丸山氏自身の澄んだまなざしも、ここではない何処かを茫洋と見ているように思えるのだった。

http://www.mitsukoshi.co.jp/art/info01.html#03


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コメント 2

i・o・t・@

木彫の世界は、よく判りませんが、美術というジャンルで生きてゆくのって「すげぇ!」と単純に思ってます。
素人&凡庸な身としては、せいぜいバイクぐらいで「あのフェンダーのラインがさぁ・・」なんて口から泡を飛ばしながら騒いでいるのが関の山・・
自己表現どことか事故表現で松葉杖をつくオイラなんて・・(ワラ)

しかし、マルさんの有機物をとおした造形表現をナマで見たかった・・
って、またどっかでやるときに拝見すればイイわけね。(自己了解)
by i・o・t・@ (2006-08-07 08:30) 

maru

モッチーさん、かちゃさん、先日はご来場ありがとうございました!もったいないお言葉の数々、嬉しいやら照れくさいやら・・・。しかし掲載していただいた写真の美しいこと!自分で資料用に一眼レフで撮ったヤツよりずっと良いや・・。参った・・・。おかげさまで成果も自分にしては上々、てところです。不明になっている作品のタイトルは「月翁鳥」といいますが、訂正は結構です。タイトルなんかよりも重要なことを汲み取っていただけてますので・・・。
by maru (2006-08-07 21:28) 

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